Aubrey Beardsley

"The Peacock Skirt"

ビアズリーはイギリス出身、非常に印象的なスタイルで一気に知名度を獲得した才気にあふれた画家である。
彼が描くのは一見悪魔的な美しさにあふれた絵であり、その曲線や装飾はとても自然的で可憐で繊細である。
しかしながら彼は「僕の目的はただ一つ、グロテスクであること」と公言している。
私はそんな彼の作品の中でも「The Peacock Skirt」こそが最高傑作であると感じている。

一体グロテスクとはなんであろうか。
文学においては共感と嫌悪感の両方を掻き立てる存在のことである。
これは建築や美術、全てのグロテスクという思想の根底に考えではないだろうか。
つまるところ、人を惹きつけるネガティブイメージであり、音楽でいうところの短調である。
現代で変容したグロテスクが意味するような短絡的バイオレンスではなく、必ず美しさが内包されているのである。
「The Peacock Skirt」で着目するべきはその曲線美とおぞましさである。
この絵の中で、印象的なのは孔雀柄の裳裾、帽子の飾り、そして背景である。
それはとても煌びやかで、妖艶であるにも関わらず、その衣装に包まれた女の表情はとても不敵である。
そして相対する人物の姿はとてもみすぼらしい。
この両極性がこの作品を構成する要素であり、これこそが彼の作品が人の心を惹きつける要因であろう。
人は曲線からは女性的な印象や植物のように有機的な印象を受ける。
それは安らぎの象徴であるがゆえに、魔女のような表情をした女性とはお互いを引き立てあうのだ。
補色が目を惑わせるように、両端に位置するものを同時に体感すると人間は大きく揺るがされる。そんな効果がこの絵からも感じられる。
グロテスクとは本来過度な装飾や自然法則や本来の大きさを無視した描写のことを指す。
その違和感が転じて、現代の「グロい」という概念に変容していったのであろう。
ビアズリーの作品は言うなれば古典的グロテスクと、現代的グロテスクとの橋渡し的存在であろう。
彼の作品は由緒正しき「グロテスク」であり、だからこそ気品があり、うつくしいのだ。