Kris Kuksi

"Imminent Utopia"

クリスククシはアメリカ人のアーティストであり、現代のアート界でも頭一つ抜けた存在である。
あまりにも精緻で、見たものの心を離さない彼の作品のコレクターは世界各地に及ぶ。
彼の作品から受ける印象は極めて神話的であり、単なるオブジェではなく、そこに新しい世界が存在しているといっても過言ではない。
そんな作品が生み出されるのには、彼の生い立ちに大きな関連があると思われる。
彼は世間の流れから取り残されたような田舎で生まれ、
かつ厳格な宗教観を持つ家庭という環境で育った彼にとって、
アートというのはその偏狭な世界から抜け出す唯一の方法であったのだろう。
彼の作品を神話たらしめているものはその構成であろう。
絶対的で巨大なシンボル、そしてそれを装飾する光輪もしくは背景。
そしてその周りに息づく人間たちである。
そしてこの構成が彼の作品を人目を「引く」ものたらしめているのだろう。

人間は第一印象というもののウエイトが非常に大きい。
結局のところ細部の作り込みよりも一見して強烈なインパクトを持つ色彩であったり、構図やサイズといったものが人目を引きつけるのだ。
彼の作品はその点において十分なインパクトを誇る。
巨大なシンボルとその装飾によって生み出される様相は、あたかもゴシック建築の荘厳さを精精1立法メートルの中に閉じ込めてしまったかのようでもある。
例えば彫刻を至近距離で見たときにその良さを語れる人間はどれほどいるだろうか。
ここの曲線がどうだとかここの仕上げがどうかというようにその作品の裏側にあるストーリーまで思いを馳せることは容易いことではない。
これはインパクトの副作用であり、そのあとの広がりが少なく見えてしまうのだ。
しかし彼の作品は近くで見るとより、複雑な世界が現れる。
その仮想世界の中に息づく人々にはストーリー性があり、そこには生活感がある。
近くに寄って見れば見るほど、ズブズブとその世界観に引きずりこまれてしまうのだ。

彼の作品の最大の特徴はこの二段階構成である。
まずは人目を「引き」、次に「惹きつける」。
彼の作品の本質は一見して目を引く部分ではなく、その細部にこそあるのだと私は思う。